EURO2008 オランダ対ロシア / 準々決勝3
- Date
- June 22, 2008 11:00 AM
- Category
- EURO2008
■Netherlands 1 - 3 Russia
ロシアの戦い方の大半は予想していたとおりでしたが、オランダの攻めは予想していたよりもずっと悪かった。これまでオランダが大量得点を挙げて勝ち上がって来られたのは鋭いカウンターから得点できたからで、崩しきった得点がほとんど無いといっていいのはグループリーグ三戦目のエントリで書いたとおり。この試合も結局フリーキックから決定的なチャンスを得ることが出来たけれど、崩してチャンスを作ったのはほとんど無く、いつものオランダ代表そのままに守備も脆くなっていた。
まず守備から書くと、不幸な出来事があったとはいえブーラルーズを先発させるのはやむを得なかった。彼が入っているからこそここまでの堅守があり、オランダの不安材料だった部分を見事に封じ込めてくれていたのだから、本人が嫌がったとしても出しておくしかなかったんです。精神的に辛い状況であっても、彼のこの試合でのパフォーマンスは素晴らしく、堅固な守備を構築することが出来ていたんですが、問題は彼にはなく、彼を交代させてヘイティンハを入れたことでしょう。彼はユーティリティプレイヤーですから右サイドバックを務めることも出来ますし、それなりに守備力のあるセンターバックですが、後ろへの動きは非常に悪いんです。彼をもし途中投入するのであれば、センターバックのオーイエルを右に出して、センターバックとして起用していた方が、三戦目でそれなりに結果を残せたポジションですし、よかったはず。そこはファン・バステンのミス。で、ブーラルーズも守備はよかったんですがそれ以外の部分ではこの試合完璧だったとは言えず、三戦目から多くやるようになってしまったオーバーラップを継続してやってしまっていましたよね。前にカイトが入っていましたからサイドからの攻撃力というところからすると上がらなければならなかったんですが、でも彼が上がることで出来るスペースを考えると積極的に上がるべきではなく、状況を見極めて前でキープできたときにだけサポートするだけでよかったはず。
あとは両センターバックの裏へ向かうスピードの無さ、ラインコントロールの稚拙さがグループリーグで出なかったのがここにきて出てしまいましたか。大会前にこの状況を見てグループリーグで負けるだろうと予想していたんですが、よくここまで持った方でしょう。本来ならエンヘラールとナイジェル・デ・ヨングの二人が中盤のスペースをカバーし、相手に前を向かせて裏を狙わせないことでこの弱点をカバーしていたんですが、この試合のエンヘラールには運動量が無くボールホルダーを抑えることもこぼれ球を拾いきることも出来ず、途中交代で離脱する事になりました。デ・ヨング一人でカバーできるほどロシアの攻撃は薄くなく、運動量も少なくない。あの交代がされたときは既に攻撃に出なければならなくなっていましたから仕方ないとはいえ、エンヘラールがそれまで同様の動きが出来てれば、それだけで少しはマシになっていたでしょうね。
ロシアの攻撃と守備のやり方は共通していて人数をかけてボールを追い越しながらパスを相手陣内で繋げる。それをやるとオランダのカウンターの餌食になってしまいそうなものですが、これまでそれにやられてきた相手と違っていたのは、ボールを奪われた瞬間に、というよりもボールを奪われる前から守備が始まっていて、オランダにカウンターの一歩目となるパスを出させないようにしていましたね。その一本目のパスを不正確にすることでカウンターの出足が徐々に鈍っていって、仕舞いには連続したロシアの攻撃になるわけです。ボールをファン・ニステルローイなりスナイデルが収めて、それを追い越す動きを左サイドバックのファン・ブロンクホルストがする。そのパターンをさせないようにロシアはまずボールを奪われた瞬間にボールを奪いに動き、正確なつなぎからオーバーラップをさせないようにした。ある程度繋がれたとしても、寄せる速さから裏を狙うタイミングを計ることが出来ないためポストプレイをしようとするオランダのつなぎのパスをインターセプト狙いで相手の前に入り込むようセンターバックの出足を早め、二段構えでカウンターを阻止していました。一度その戦い方でカウンターが使えないという意識をオランダにすり込んでしまえば、グループリーグで見せたような鋭さは出ませんから、その時点で術中に嵌ってしまっていたと言ってもいいでしょう。
オランダは相手を崩すために敵陣内でパスを回して、ドリブルをして、とやっていましたが、それが全く効果的でなかったのは、得点を焦るあまりディフェンダーが前に並んでコースが限定されているにもかかわらずミドルシュートを多く打ち、ドリブルで切り崩そうとしてもサイドの広大なスペースを利用するのではなく密集している中へ向かっていこうとするのだからファウルは貰えてもそれ以上の効果は得られません。パスにしても回している間に本来ならサイドに残ってクロスを上げたり、一時的なボールの収めどころとなり形を作り直すためにサイドバックがサイドに張っていなければならないんですが、左サイドバックのファン・ブロンクホルストは左サイドでボールを回している間にセンターフォワードと同じ位置にまで入り込んでしまって得点を狙う動きをしてしまってました。中に入って得点を狙う動きをファン・デル・ファールトやスナイデルがしてくれないから彼が飛び込んでいったんでしょうが、それをするのは逆サイドの選手の役目で、同サイドの選手がそれをやってしまうと手詰まりになったときにパスを預けて作り直すことが出来ず、バックパスをする位置すらなくなってボールを奪われてしまうんです。何故彼があそこまで中に入っていってしまったのか解りませんが、残念ですね。
彼以外にも多くの選手が中への意識を強く持ちすぎ、右サイドに左利きのファン・ペルシーを置いているから彼も中に入ってくる、左サイドに右利きのアフェライを置いているから彼も中へ、と、飛び出す選手もなく中へどんどんと入り込んでも大渋滞を引き起こすだけでミドルシュートのコースも自分たちで防いでしまうようなもの。ワンツーで抜け出すスペースも消してしまいますね。
上手くロシアがカウンターの可能性を早めに諦めさせ、オランダがそれに乗っかって焦りを強めた、ただそれだけのことなんですが、グループリーグとトーナメントでは勝負の質が違うんです。選手を休ませたチームがことごとく敗退しているのが何の影響なのかは知りません。ただ言えるのは、中二日のロシアの方が総じて運動量が多く見えたこと。実際のデータが出るところで書いてませんから何とも言えませんが、ともかく予想通り。
少しだけ彼らのメンタリティの話をすると、オランダの選手たちは何としても90分で勝たなければならないと思っていた。ロシアに先制される前から、延長に行くことは御免でPK戦にもつれ込むのだけは何としても避けたい、だからこの90分の間に得点を取らなければならず、多少焦ってでも前にボールを運びたい。そんな意識が見て取れた。相手と自分たちを見比べて劣るところはどこにもなく勝てるはずだ、それに伝統的にPKに弱い、と意識づけられている国ですから、そこまでいってしまうとこの優位な状況を崩してしまうことになる、とでもいうべきでしょうか。とにかく90分での勝利に拘っていたのはオランダ側で延長に入ってからも勝負に拘っていたのもオランダ側でした。
ロシア側ももちろん勝ちたいという意識は働いていましたが、90分で何としてでも勝たなければならないと思っておらず、同点に追いつかれたあとでもここから巻き返して何としてでも勝利を、というよりも延長に入っても自分たちはやれる、という感じですね。延長に入ってからも、もしPK戦になっても自分たちは失うものは何もない。そういえるぐらいにプレッシャーのない動きでした。だからこそ相手の隙が見えていて、延長のリスクを冒せない環境でもリスクを冒して得点することが出来た。彼らは例えPK戦になっても、先生から追いつかれたというマイナスのイメージを微塵も持つことなく挑んでいたでしょう。チャレンジャーとしての立場故の有利とでもいうべきでしょうか。オランダは勝ちきれなかったという意識のまま挑み、決めなければならないと強く思いすぎて外してしまっていたのではないでしょうか。
以前のエントリでドイツやイタリアにはそれがない、と書いたのはそういったことに慣れきっている国民性と勝ち切らなくても構わないという状況。例えばセットプレイ一つでも得られれば得点できるという自信、形が作れなくても得点できる自信、俗っぽい言い方をすれば「勝ち方を知っている」国ならではの戦い方を、90分で勝負がつかず延長でも無理だろうと判断すれば、切り替えることが出来るから。オランダにはその最後の武器がないんですヨ。