■FC Barcelona 3 – 0 Valencia CF
バルサは前節の退場からイブラヒモビッチが出場停止でグァルディオラ監督もベンチには入れず、大事を取ってプジョルも出場せずと苦しい状況にありましたが、それ以上にバレンシアの状況は苦しいものでした。ビジャ、マタ、アレクシス、マシュー、マルチェナといった主力の選手がことごとく出場できず、バルサがバレンシアと対戦する際に苦手としている選手たちの多くを失っていました。スピードのある選手の多くを欠いていましたから、与える脅威は少なく心理的な負担は少し少なかったかもしれません。
バルサはイブラヒモビッチの代わりにアンリを投入せず、メッシを中央からスタートさせ、左にボヤンを先発出場させていました。ここ最近多く見られていた4-2-3-1でのスタートではなく、基本的な形の4-3-3でした。ただメッシが中央でプレイするとしても相手のディフェンスラインを押し下げるような裏への動きであったり、ポストプレイのように体を張るプレイを期待することは出来ず、下がってボールを受けに戻ってきてしまったり、プレッシャーの少ない位置で前を向きたがるために中央に人が足りず、ウイングの二人に負担をかけてしまい、マークを引きはがせない要因になっていました。右のペドロはバランスを取るために序盤は中に入りがちで、シャビが流れてスペースを利用するなどの変化を必要としていましたし、左のボヤンは裏へ飛び出したり中へのカットインを多用していましたが、近くにボールを預けられる選手がいないために孤立して選択肢を失いがちで効果的であるとはいえませんでした。マクスウェルがオーバーラップをして外側へ一枚を引っ張っていってあげられれば、それでも一定の攻撃のパターンとして使えそうだったんですが、そこの連携が出来ておらず、タイミングが合うことはありませんでした。
シャビと同列でイニエスタがプレイすることでボールを保持することはそれほど難しくなかったんですが、緩やかに厳しいマークが付いていて前へ運ぶのは難しかった。バレンシアがディフェンスラインと中盤の二つのラインを近く保ち、バルサにスペースを与えない守り方をしていたこともありますし、そこへ入っていく選手もその裏側を利用する選手もいなかった。その手前側でしかボールを回せておらず、中央を固められ、その外側で危険を与えられない攻撃に終始していました。多くの選手に足下で受けたがる姿勢が強く見えていて、スペースへと出て行かず窮屈なエリアに入り込んで相手を引きつける動きもしない。ボールを受けるためのポジション修正もしませんし、下がって引き出す動きもしないから前後にも分離していました。距離が伸びて相手が密集しているにもかかわらず足下で受けることを中心として、さらにパススピードもいつもよりも遅かった。ボールを戻した後も、左右へ動かしたりもう一度受け直そうとする動きが無く、バックパスをしてそれでおしまいにしている。戻した後のプランもなく、パスカットされやすい環境を自ら作ってました。
それでも高い環境からプレッシングが出来ていればショートカウンターから得点機を得ることが出来るんですが、この試合の前半で行われていたのは中途半端なプレッシングばかり。シャビやペドロといった選手は積極的に追い回しているんですが、メッシやボヤンはそれらにあまり参加していませんでした。一つの部分でパスコースを限定してもその先を抑える選手がいないために簡単にかいくぐられてしまい散発的な動きになる。この動きの裏側を利用されて、ディフェンスラインの前へ一気にボールを出されてしまっている回数も多いですし、その後の戻りも遅いためにセンターバックが跳ね返してもこぼれ球を拾われて二次攻撃をされる場面も多い。
いつもならパスカットされても、パスカットされそうだと解った瞬間に、その位置に先に向かっていて、奪われた瞬間に奪い返すことが出来ているんですが、この試合はそれをする選手がいない、あるいは非常に遅くそういった事が見られそうにありませんでした。
非常に問題の多かった前半だったんですが、後半はボヤンに変わってアンリが投入されたことで全体が活性化されていました。システムも多少変化をして、4-2-3-1に近い形をとりつつイニエスタを中へ入れる回数が多いものでした。早い段階でそのシステムの変化の効果は出て、後半最初のダニエウ・アウベスのクロスに対して多くの人数がペナルティエリア内に入り込むことが出来ていました。前半はサイドを利用できたとしても中にいるのは高さのない二人程度で利用できそうになかったんですが、シャビが後方に残ることでセルヒオ・ブスケツを入れることも出来ていましたし、アンリも入ることで十分な高さと人数が出来ていました。
アンリはバルサのクリアボールに対しても積極的に体を張って収めようと動いていましたし、裏を狙う意識を強く持っていた。パスの出し手が足下を始めの頃は意識していたために上手くパスが繋がりませんでしたが、連続して行うことでパスを裏へ出せるようになっていきましたし、アンリが細かな動きであったり直線的な動きではなく、大きくダイアゴナルに動くことからスペースを作り出しやすくギャップも出来やすくなっていた。メッシもそこを利用して飛び出すようになっていましたし、ゴール前に人数が集まればイニエスタもシャビも飛び出していけるようになり、前半はスペースを消されていて利用できていなかったエリアを効果的に使えるようになっていました。
イニエスタが左から中へ入ることが多く、マクスウェルが持ったときに前へコースが無くドリブルもパスも出来ない苦しさはありましたが、その分、中が充実して攻撃時のサポートの距離が近くなりましたし、守勢に回った瞬間のプレスに人数をかけられるようにもなり、二枚で囲い込める場面が増えました。アンリが非常に精力的にチェイシングもしていましたし、ボールを引き出す動きを頻繁に行っていて、チーム全体を引っ張る動きでしたし、模範になる動きで活力を与えていました。
そしてアンリの動きへと集中したところにメッシが個人技でゴールを奪い先制点。それまでの間に何度も裏へ抜ける動きをしていたからこそ、足下で受ける瞬間にぶつかられることなく受けられたのかもしれません。得点を境にメッシも大きく押し込まれているときにはきちんと後方にまで戻り、クリアを受けて攻撃の一歩目や、ボールの収め所として連続して攻撃を受けない位置になろうとするようになっていました。
全体のチェイシングの意識も前半とはまるで別のチームであるかのように上がりましたし、それができるようになったことで、センターバックが相手を抑えておくばかりではなくパスカットを狙うために前へ出られるようになった。そういったプレイが出来るようになればラインも高く保て、連続してチェックが出来るようになり、全体が好転していきました。一人目の後のコースに入れていましたし、切り替えが早くなってパスカットされそうな部分へ奪われるよりも先に詰めておくことも出来るようになってきていた。バレンシアはそれらによってセンターバックやピボーテから前へ出すコースを探すのが難しく、バックパスの本数も増えて追いかけ回されるようになって安定していきました。
その時間帯で唯一危険だったジギッチの抜け出しの部分はビクトル・バルデスが防いだお陰で事なきを得ましたが、ここの部分の集中力を失っていて抑えきれていないことがここの所の不調の要因なのかもしれませんね。
ただ、この直後にメッシのドリブルをマドゥーロが倒して退場してしまったためにバレンシアの可能性がしぼんでしまい、弱点を露呈することなく試合を進められました。実際にどうだったのかを知ることは出来ませんが、その後もバレンシアはブルーノまでも怪我で失ってしまい、効果的な攻撃を繰り出すことも出来なくなりましたし、ホアキンの投入も結局出来なかった。
バルサにとっては運に恵まれていましたが、救世主になったのは間違いなくアンリで、彼が出場していなければ、大きな変化を与えることが出来ず、崩すことも難しく、守備を前線から組み立てていくことが出来なかったでしょうね。残りのメッシの二ゴールも彼がいたからこそのものでしょうし、長距離のパススピードが上がったために通るようになったのも、全体の運動量が増えたのも、きっかけとしてアンリがいたからかもしれません。もちろんハーフタイムの修正があった上での出来事なんでしょうけれど。